研究概要 |
ラットを用いた臭化メチル吸入曝露実験の結果、脳内CK活性阻害の程度と臭素イオン濃度の変化とは一致しなかった。すなわち、臭化メチルの曝露量、期間に応じて、脳内臭素イオン濃度は著明に増加したが、CK阻害にはそのような変化は認められなかった。このことは、CK活性阻害が臭化イオンではなく、臭化メチル自身による可能性が高いことを示すものと考えられた。試験管内できわめて短時間内にCK活性阻害がみられたこと(次記)もこのことと矛盾しない。ラット全脳ホモジェネートを用いた臭化メチルの試験管内曝露で、臭化メチルが強力なクレアチンキナーゼ(CK)活性阻害効果を発揮することを確認した。500ppm曝露でも曝露開始5秒以内に明らかな阻害効果がみられた。この時、ASAT, LDH活性には影響を及ぼさなかった。ここで、N-アセチルシステイン(臭化メチル中毒に効果を発揮するとの説があったが、最近反論がある)を添加しても、臭化メチルのCK活性阻害効果に対し明らかな効果はみられなかった。しかし、ジチオスレイトール(DTT)存在下では、CK活性阻害は明確に抑制された。この点で、臭化メチルの作用は、アクリルアミドあるいは酸化エチレンのそれとは異なる可能性が考えられた。すなわち、CK分子中のSH攻撃がCK活性阻害において重要である可能性がある。一方、ラットにアクリルアミドを腹腔内投与(50mg/kg/日、8日間)し、小脳中のCKのmRNAをRT-PCRで、蛋白量をWestern blottingにより検討したが、これらに変化は認められなかった。すなわち、ラット小脳におけるCK活性阻害は、その遺伝情報発現抑制によるものではなく、CK分子に対する直接的攻撃による可能性が高いことが考えられた。
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