我々は、これまでin vitro(ラット脳ホモジェネート)およびin vivoで、アクリルアミド、酸化エチレン、臭化メチルが、クレアチンキナーゼ(CK)活性に対し、阻害効果を持つことを見出した。さらに、アクリルアミドに関して、in vivoにおける活性抑制がCKの遺伝情報抑制によるものでないかをmRNAのRT-PCRおよびWestern blottingにより調べた。更にこれについて定量的検討を加えたが、ラット小脳の細胞質CK(Bサブユニット)mRNAおよび蛋白量、ミトコンドリアCK(ubiquitous form)mRNAについて、対照と全く差のないこと、すなわち、少なくともアクリルアミドについて上記所見は、CK蛋白量減少による見かけの活性低下ではないことを明らかにした。 CKは次の反応(双方向)を触媒する;ATP+creatine←→ADP+phosphocreatine。諸臓器特に脳におけるエネルギー(ATP)レベル維持の重要性から、CK活性阻害は神経毒性発現に関与している可能性が考えられる。一方近年、エネルギー生産と消費の場を移動するのはATPそのものでなくphosphocreatineであること、ミトコンドリア(エネルギー生産器官)のCKは上記反応の左→右に関与し、phosphocreatineを生産(およびミトコンドリアにADPを供給して呼吸を促進)すること、細胞質CKは右→左反応により、エネルギー消費の場において迅速にATPを生産すること("phosphocreatine shuttle")が確立したと言ってよい。ここで、一般に神経細胞におけるミトコンドリアとエネルギー消費部位の距離の大きさを考慮すると、アクリルアミド、酸化エチレン、臭化メチルという代表的神経毒性化学物質がいずれもCK活性阻害を引き起こすことの意義は大きいと考えられる。
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