1.アポトーシスを生じる塩化トリブチルスズ(0.1-1μM)を暴露したPC12ラット褐色細胞腫およびMCF-7ヒト乳がん細胞において、各MAPキナーゼ(extracellular signal-regulated protein kinase、c-Jun N-terminal kinase [JNK]、p38)のリン酸化型蛋白レベルが増加することをウェスタンブロット法により認めた。一方、各総MAPキナーゼ蛋白量の変化はなかった。 2.MAPキナーゼがアポトーシス発生に関与するp53蛋白のリン酸化を生じる可能性について検討した結果、野性型のp53を発現するMCF-7やA549ヒト肺がん細胞では、各々、DNA傷害性の塩化カドミウムとアスベスト(クリソタイル、クロシドライト)の暴露により、p53蛋白のセリン15のリン酸化が、MAPキナーゼではなく、DNA-PKやATMのようなphosphatidylinositol 3-kinase related kinaseファミリーに依存して認められた。一方、塩化トリブチルスズの暴露では、p53蛋白量に変化なく、そのリン酸化も認められなかった。同様に、塩化マンガン、塩化亜鉛、塩化水銀および塩化鉛の暴露でもp53蛋白のリン酸化は認められなかった。 3.JNK活性化に至るシグナル伝達を明らかにするために、JNKキナーゼ欠損マウス胚性幹細胞における重金属暴露の影響を検討した。その結果、塩化カドミウムおよび塩化水銀を暴露したSEK1およびMKK7欠損細胞では、野性型細胞と比べて、リン酸化型JNK蛋白レベルとJNK活性は著明に低下していた。重金属暴露によるJNK活性化は、SEK1とMKK7の両JNKキナーゼに依存していることが示唆され、現在、本欠損細胞における塩化トリブチルスズの細胞毒性等について検討している。
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