本年度は、R.Emde(コロラド大学)が開発し、報告者が小此木啓吾らと共にその日本版作成と標準化作業を行ってきた、日本版Infant Facial Expression of Emotional from Looking at Pictures(以下JIFP)による、産後うつ状態の母親とうつ状態ではなかった母親の情緒応答性(emotional availability)の比較検討を行った。 産後うつ持続群(12例)は非うつ持続群(51例)より、JIPF感情カテゴリーの「不安:不安、とまどうなど」「不満:気に入らない、すねるなど」の子どものサインの読みとりが有意に少なかった。また、産後1カ月でSDS40点以上の抑うつ状態と判断される母親は、子どもの外界に対する積極的な反応である「注意:疑問、驚き、興味など」を少なく読みとり、「苦痛:痛い、深い、不機嫌など」を有意に多く読みとっていた。 また臨床例で、軽度うつ状態の母親は子どもの表情を、「眠い」「泣きたい」など自分自身の状態のprojectionが多く認められた。さらに、重症の産後うつ状態の母親では、「赤ちゃん部屋のおばけ(S.Fraiberg)」現象が起こっていて、自分自身の不安で寂しかった幼児期体験が育児をしているなかで想起され、混乱していることが推測された。 以上のことからJIFPは、関係性障害(Zere to Threeの診断基準)にある母子の診断と治療に有効であると判断された。1)相互交流行動がうまく行かない母子を診断する際の手がかりとなる。2)母親自身が子どもの表情を認知するパターンを客観化させ、母親の幼児期体験が想起され、それが子どもの養育に影響していることが自覚される。
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