研究概要 |
被爆から50年以上が経過してもなお残る、原爆被爆者の「こころの傷」の全体像を把握するために、原爆被爆体験に関する口述記録の分析を行った。調査は1997年7月から10月に長崎市在住の原爆被爆者を対象に、面接法による聞き取り調査を行った。対象者数は1,237人(男482人、女755人)である。これまでに全対象者の口述記録をデータベース化する作業を終えている。同データベースには、対象者の基本的な属性や被爆時の状況も収録した。対象者の被爆時年齢の平均は17.7歳(男16.6歳、女18.3歳)であった。また被爆時の状況は直接被爆者が1003人、入市被爆者が231人、不明3人であった。直接被爆者における被爆距離の分布は、中央値が3.3km、第1四分位が2.5km、第3四分位が4.1kmであった。被爆体験については、「今でもたびたび被爆体験を思い出す」と回答した人は1,064人(86.3%)であり、「思い出さない」と回答した人(169人、13.7%)を大きく上回った(無回答4人)。また、「健康状態が悪い時、被爆との関係を考える」と回答した人は746人(61.1%)であった。これらの結果から、被爆者は現在もなお被爆体験を「こころの傷」として抱えており、特に被爆体験と関連付けて身体的な健康状態への不安を有していることが示された。現在は、テキスト型データ解析の方法により、口述記録を"要素"に分解し、さらに近い意味を持つ"要素"をグループ化してそこから"概念"を抽出する作業を行っている。今後は、要素間、概念間の相関関係を調べ、さらにGHQ-30項目得点との関連を調べることで、被爆による精神的・心理的影響を明らかにする。
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