研究概要 |
鉛取り扱い作業者の非顕性健康影響をベンチマークドース(BMD)法により評価することを目的として、国内の鉛作業者男性388名を対象に、鉛曝露指標値の変動要因を検討した上で、モニタリング値の異常率に対する鉛の影響量について算定を行った。 貧血の影響指標として、ヘモグロビン濃度(Hb)、ヘマトクリット(Hct)、赤血球数(RBC)を測定し、非曝露集団の異常率5%よりさらに5%の異常増加をもたらす血中鉛濃度(BPb)となるBMDを求めた。いずれの貧血指標ともBPbとの間に有意な関連が認められ(Hb ; r=-0.240,Hct;-0.201,RBC;-0.237)、年齢や勤務形態など交絡因子の影響を調整しても有意であった(P<0.001)。BMD法により、年齢と勤務形態を調整して推定されたBPbのBMDはHbで28.3、Hctで43.6、RBCで29.5μg/dlであり、また臨界濃度(BMDの95%信頼区間の下限値、BMDL)はHbで192、Hct29.4、RBC19.7μg/dlであり、これまで成人の鉛曝露が貧血を引き起こすと考えられてきた濃度(50μg/dl)より低値であった。影響評価をより明確に行う上で、BMD法を用いることが鉛影響発現の曝露濃度の推定法として妥当であることが示された。 中程度鉛曝露作業者212名に対して自律神経機能を計測し、副交感・交感神経指標となるQTc、CVrr、C-CV_<LF>、C-CV_<HF>と鉛曝露指標との関連について解析したところ、BPb、赤血球プロトポリフィリンおよび尿δ-アミノレブリン酸値との間に有意な量影響関係は認められなかった。鉛取り扱い作業者の健康悪影響を予防・早期発見するために、中枢・自律神経機能に影響が現れ始める曝露濃度を、BMD法を用いた「閾値なし」モデルによりさらに検討する必要がある。
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