研究概要 |
本年度は、下記2課題の検討を実施した。 (1)項目反応理論(IRT : Item Response Theory)解析 昨年度に引き続き、多段階選択肢間の間隔の検討が可能であるGPCM解析を試みた。これまでの調査で11,000人以上のデータが得られている職業性ストレス簡易版調査票の各項目回答(4回答選択肢)およびにCES-D抑うつ尺度に対し、多値型データ対応の新しいIRT解析手法であるGeneralized Partial Credit Model (GPCM)を適用した。 解析の結果、抑うつ尺度の中間回答選択肢の潜在特性値上の距離は非常に狭いことが明らかになった。これは個々の抑うつ症状をいくつかの段階で測定・評価するよりも、潜在特性上のある閾値を越えているか否か(すなわち2値評価)で評価した方が実際的であることを示唆する。このような報告は国内外共に見られず、学術的に極めて貴重な所見と思われる。 (2)精神健康状態評価のためのCAT(Computerized-Adaptive Testing)の試作 職業性ストレス簡易版調査票の項目に対する、上記のIRT解析を基に、CATの試作品開発を行なった。IRT-CATシステムの特徴は、(1)全項目に答える必要がない(潜在特性上の位置(θ)の評価≠尺度合計値、推定誤差が条件をクリアすれば、すぐに収束し検査終了、別の測定時点・項目への回答結果でも比較が可能)、(2)同一項目群の繰り返し使用やこれまでの測定尺度のような常に同一順序の項目提示が回避(記憶されにくい)、(3)対象者のレベルに応じた項目選択、(4)結果の迅速なフィードバックが可能などである。 各回答選択肢は4であるため、選択肢間の閾値(位置パラメータ)を多値型のIRTモデル(Modified Graded Response Model)により推定し適用した。今後、この試作品を改良し、実際の職域集団に試行する予定である。
|