本研究は、近年の個人情報保護法公布や個人情報に対する国際動向を受けて、安衛法に基づき事業者が保存する健康情報の取り扱い方について、労働者側の意識と実態を調査することを目的とした。 調査は、連合本部雇用労働局の協力を得て産業別労働組合を通して抽出した全国の836単組および非連合系の88単組の安全衛生担当者を対象に、A3版両面1枚の単組名および回答者名記入式の調査票を配布し、安衛法に基づく事業者による健康診断結果の保存に伴う課題、労働者個人のプライバシー保護を優先するための産業医による健康診断結果の保存の是非、職域の人事担当者による健康情報の閲覧可能範囲、健康診断結果に基づく安全衛生確保義務と労働条件変更に関する課題、過去の問題事例等について選択方式と自由記載方式でたずねた。最終的に353単組(適用労働者総数約75万人)から回答(回答率37.8%)を得た。使用者による健康情報管理に「問題あり」としたのは46単組(13%)にとどまり、243単組(69%)で現行方式が肯定された。新方式を導入して、産業医が管理する場合に「問題あり」は160単組(45%)、労働者が自ら管理する場合に「問題あり」は253単組(72%)に上った。産業医が選任されていた278単組に限定しても、産業医による管理に「問題あり」が134単組(48%)で、公務で64%と最も高かった。新方式では、就業上の措置の不徹底や小規模事業場が課題となることが指摘された。使用者が労働者の健康情報を閲覧すること及び労働条件を変更することに「問題なし」とする単組の割合は、使用者による管理を支持する群に多く、産業医や労働者による管理を支持する群では少ない傾向を認めた。閲覧が可と判断された項目は「現病歴」が最多(55%)で、一般定期健診項目では「体重」が最少(18%)、全体ではでは「家族の病気」が少なかった(7%)。過去の問題事例として、精神疾患やB型肝炎を理由とした解雇、本人承諾なしでの主治医への問合せ、復職者と同僚との人間関係が質問された事例、所属長に健診結果が送付された事例等が報告された。
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