初年度は、初老期発症の前頭側頭葉変性症(FTLD)患者とアルッハイマー病(AD)患者の在宅介護上の問題点を、両者の比較もふまえて明らかにすることを目的とした。FTLD患者5例およびAD患者6例の家族介護者に対する半構造化面接の結果、FTLD患者では、'患者にみられる拒否や多動あるいは突発的な行動が在宅介護上の特徴的な問題点であることが明らかになった。一方、AD患者では、患者がADLの行為手順がわからず拒絶するために、介助の必要性が増大していた。このように、在宅介護上の問題点は、認知症の原因疾患によって異なることが示された。平成15年度は、初老期FTLD患者について、その在宅介護上の問題点をより詳細に検討した。2例のFTLD患者とその家族介護者に対し、半構造化面接を行った結果、両例とも、ADL介助に対する非協力的な行動が多くみられた。また、患者の食行動異常、常同行動、脱抑制が、在宅介護をより困難にさせていた。したがって、患者に特異的な症状に関する広範な情報提供や社会的な理解と支援が、介護者にとって強く必要とされていると考えられた。平成16年度には、初老期認知症患者と老年期認知症患者の家族介護者において、両群の介護状況を調査し、統計学的に比較検討した。その結果、初老期群では、老年期群に比して、医療・福祉サービス専門職からの情緒的サポートが少なく、在宅介護サービスの利用も少ないことが明らかになった。最終年度は、初老期群と老年期群の家族介護者において、介護負担に関連する要因を分析した。その結果、老年期群の介護負担は、患者の症状や介護状況を表す変数の多くと関連を示したのに対し、初老期群の介護負担は、介護者の健康問題と強い相関を示した。 以上より、初老期認知症に関する情報の普及や介護サービスの充実とともに、介護者に対する直接的な身体・心理ケアが、介護負担の軽減に寄与するものと示唆された。
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