本年度は最終年度として、ミトコンドリアDNAの多型解析と急死事例についての総括を行った。解剖事例を多く集め検索を行った。その結果、いくつかのことが明らかになった。その結果、窒息死とそれ以外の死亡の場合には細胞の酸素欠乏の状態が異なり、窒息死の場合には、ミトコンドリア細胞の分断化と低機能化が特に脳や心臓の細胞において著しく、その他の細胞においては少ないことが判明した。その他の外因死の場合には、低酸素化の影響が細胞種の間で差がなく、比較的、バランスが取れていることが判明した。 特に興味深かったのは、酸素欠乏に比較的耐性が強いのは、腎であることである。その他、骨格筋や骨などの運動器は酸欠の影響が、大きな幅をもって認められた。また病死の場合には、死因によって酸素欠乏による影響がさまざまで、特に興味深かったのは、酸素欠乏の影響が、死因となった臓器が何かによって異なることである。急性の心臓死の場合には、慢性的な虚血性病変が序々に進行している事例では、酸素欠乏に対する耐性が比較的強いが、慢性的疾患のない心臓に、急激な心負荷が発生して、死亡したような場合には、酸素欠乏の影響が強く表れた。このことは病的反応はむしろ回復過程としても捉えられることを示唆している。 死後経過時間との関連性では、死後1日半以上を経過すると、検査が困難になるが、それ以前では可能であった。つまり早期死体現象が発生しているまでの間では、酸素欠乏についての細胞的な反応が生じうることを示している。 以上を、総括すると、急死事例、とくに窒息死の診断に、酸欠に対するミトコンドリアの変化を探索することは、脳や心臓の細胞変化に着目することによって、その可能性があることが明らかになった。しかし、現在までに明らかにされているマーカーではどれも一長一短があり、さらなる研究を要することが判明した。
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