本研究は、法医解剖された遺体のうち、窒息死、あるいは呼吸器系疾患、あるいは急性心臓死や循環器系疾患による低酸素状態が誘発される突然死例を対象にした。その死因を明確にする目的で、遺族の承諾を得て採取後、病理組織標本作成用の脳と心筋の一部を凍結標本とした。凍結標本の薄切を行った後、マイクロダイゼクション(エッペンドルフ社製)により同種細胞を切り出し、目的とする領域をPCR増幅した。以上の方法については、適切な実験手技が確立できた。 領域としては、呼吸鎖関連領域のダイレクト・シークエンスと核内DNAのミトコンドリアDNA偽遺伝子のダイレクトシークエンスを行い塩基変異について検索している。なお、呼吸鎖関連領域と急死例との関連性について事例を集めつつ検索中である。 窒息状態の経過が長い事例においては、比較的良好な結果が得られたが、臓器別では心臓や腎臓にて良好な結果が得られた。また脳は酸欠に弱いため、試料としての有用性が期待されたが、細胞の崩壊が早く、データにはバラつきが見られた。 また解剖により採取された血液から白血球を分離し、ゲノムDNAを抽出した後、リアルタイムPCRにて、ミトコンドリアDNAの定量を行ったが、方法としては2段階PCR法が目的とする領域を効率良く増幅できることが明らかになった。具体的には1回目のPCRにて約1000bpを増幅し、2回目のPCRにて126bpを増幅することがもっとも検出が容易であることが判明し、その実験プロトコールを確定し、データ解析中である。
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