この研究では、アルコールの生体作用の中で特に生体防御系の転写制御因子NF-kappaBに着目して研究を行った。NF-kapaBは、阻害タンパクであるIkappaBがユビキチネーションで分解されることで活性化することがよく知られている。最初にすでに行われている研究とアルコール代謝について整理した後(総説で発表)、アルコールのNF-kappaB活性化に及ぼす影響について肝臓および肝臓細胞で研究を行った。結果として、アルコール特にエタノールは急性負荷で活性化すること、その活性化をプロテアソーム阻害剤を負荷すると減じ、その一方でJNK-AP-1系が活性化することを明らかにした。さらにそのメカニズムにNF-kapaBによって誘導されるIAPが関与していることを明らかにし、急性負荷の時になぜ著明な細胞死が生じないかの具体的なメカニズムを初めて明らかにした。このNF-kappaB活性化機構については、自然免疫機構の一つであるTLR4シグナリングが関与していることも明らかにした。一方、細胞死に向かうJNK活性化機構については通常Akt活性化に支配されており、このシグナリングはエタノール単独では活性化しない。しかしながら、エタノール代謝が飽和するとAktが活性化してJNKを活性化させることも明らかにした。このシグナリングについては、線虫モデル実験で各種ノックアウト体を用いて検討したところ、IGF受容体下流域とFOXOとの間であることを明らかにした。また、アルコールによるNF-kappaB活性化の肝障害に及ぼす影響を調べるためにアルコール性肝障害と同様の病理組織形態を取る非アルコール性肝障害モデルを作成してNF-kappaB活性化と肝障害との関係を検討した。この肝障害状態ではIkappaBのユビキチネーション阻害が認めら、別な経路の活性化が示唆された。
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