研究概要 |
作成した三次元ヒト頭部-頚部有限要素モデルは,皮膚,頭蓋,頭蓋内物質から成る三層構造である頭部に,頚部モデルを取り付けたものである.モデルの作成には頭部CT画像とMRI画像とを使用した.CT画像から頭蓋の輪郭線を抽出し,抽出した輪郭線の間に三角形の面を張ることにより,頭蓋の三次元サーフェイスモデルを作成した.MRI画像から皮膚の輪郭線を抽出し,同様の方法で皮膚の三次元サーフェイスモデルを作成した.これらのサーフェイスモデルを利用して,プリポストプロセッサFEMAPで四面体要素にメッシュ分割して三次元ヒト頭部-頚部有限要素モデルを作成した.モデルの頭蓋内構造は,蝶形骨の大翼,小翼や下垂体窩などの構造を再現しており,また大後頭孔を通して頚部の中空部につながっている.このモデルの皮膚,頭蓋,頭蓋内物質,頚部および頭部打撃に用いるインパクタの材料定数を指定し,境界条件を付加した.打撃実験では,モデルの後頭部にインパクタを衝突速度384.6mm/sで衝突させ,汎用の陽解法有限要素コードであるLS-DYNAを使用して実験結果の解析を行った.打撃実験の結果,前頭部頭蓋内に陰圧の内圧変化を認め,ヒト頭頚部模型を用いた過去の研究結果と良く一致しており,モデルの妥当性が確認された.また,脳損傷解析におけるこのモデルの頭蓋と頭蓋内との接触条件を検討した結果,実際例における頭蓋内応答に近いのは,頭蓋と頭蓋内とが結合しない(slide)条件を用いた場合よりは,両者が結合する(tied)条件を用いた場合と考えられた.実際例における検討では,17歳,女性の交通事故死剖検例(受傷後の生存時間:10日)について,受傷時の状況調査と脳の神経病理学的検査を行った.病理学的検査の結果,DAI(びまん性軸索損傷)と診断された.またβ-APP mRNAの遺伝子発現解析では,白質に比して,皮質および脳梁において強い遺伝子発現を認めた.
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