研究概要 |
前年度の本研究で作成したヒト頭部有限要素モデルに,皮膚,頭蓋,脳脊髄液,脳のそれぞれに文献から引用した材料定数を適用し(モデル重量:6.06kg),拘束条件,接触条件および荷重条件を付加した.拘束条件では,大後頭孔周囲で矢状方向のみに自由度を持たせ,その他の自由度については拘束した.接触条件では,大後頭孔周囲のサーフェスデータを結合し,頭蓋と脳脊髄液間および脳脊髄液と脳間での各要素の結合は行わなかった.荷重条件では,二種類の重量(1.69kg,49.7kg)の立方体インパクター(鉄(7.86g/cm^3))を用い,いずれも1,000mm/sの速度で後頭部に矢状方向の並進衝撃を与えた.非線形動的構造解析ソフトウェアLS-DYNAにより有限要素解析を行い,衝撃後の頭蓋および脳要素変形,打撃部位である後頭部,打撃の反対部位である前頭部,および脳梁,橋,延髄におけるVonMises応力,前頭部および後頭部の内圧変化,また頭部重心加速度を測定した.結果は以下のとおりであった.いずれのインパクターを用いた場合も,モデルの各要素では並進運動のみでなく,回転運動も認められた.脳内に発生するVonMises応力はいずれのインパクターにおいても,延髄で最も強く,ついで橋,脳梁,前頭部,後頭部の順であった.VonMises応力が打撃後ピークに達する時間はいずれの部位でも重いインパクターで軽いインパクターに比し遅れていた.内圧変化は,いずれのインパクターでも後頭部で陽圧,前頭部で陰圧が発生していた.内圧のピーク値は,いずれの部位でも重いインパクターよりも軽いインパクターで高い値を示し,重いインパクターで軽いインパクターよりもピークが遅れて見られた.いずれのインパクターでも,打撃後ピークが認められる時間は,前および後頭部内圧変化,頭部重心加速度の三者ともほぼ一致していた.モデル実験に平行して実際症例における検討も行った.
|