研究概要 |
本研究は受傷後発現する炎症性サイトカインのmRNAがどのように消長するかを比較・検討し,さらには皮下出血修復過程が多様性を有する原因を考察することを目指したものである。皮下出血モデルとしては従来皮下に自己血を注入するなどの方法が提唱されてきたが,法医学的に問題となる皮下出血の受傷機転,すなわち鈍体の打撲・圧迫とは本質的に異なる。そこでDDY雄性マウスを用い,背部中央の皮膚を剃毛し,中央を吊り上げ2枚のステンレスプレートで皮膚を圧迫する方法により皮下出血を作成した。まず血管修復因子として報告されているサイトカインtissue-type plasminogen activator(t-PA)の発現について検討したところ,皮下出血におけるt-PA mRNA発現量は受傷1時間後をピークとする経時的変動が認められた。皮下出血の発生機序は皮下の血管破綻であり,一般にplasminogen activatorは血管損傷後早期に毛細血管基底膜および細胞外器質を溶解し修復を促進するとされており,これが本検討における受傷後早期のt-PA mRNA発現量増大と関連していると考えられた。一方細胞外器質の一つであり創傷治癒への関与が報告されているfibronectinのmRNAの発現動態を検討したところ,皮下出血後のfibronectin mRNA発現量は損傷作成後後期をピークとする経時的変動が認められた。fibronectinの作用はオプソニン化への関与を含め多彩であるが,皮下出血治癒過程においては主として受傷後後期の組織リモデリングに関与しているものと推定された。またこれまであまり報告されていない,一定侵襲下での皮下出血に伴う炎症性細胞の動態の免疫組織学的検索も行い若干の知見を得た。これらの炎症細胞の動態と,それぞれ挙動の異なる複数のmRNAの発現を併せ検索することにより,データの分散が大きいとされる皮下出血においても比較的正確なエイジングができる可能性が示された。
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