毛髪からPCRによりDNA多型を検出する際、染毛剤を使用していると酵素(ポリメラーゼ)反応の阻害が起こり分析が不能となることが多い。本研究では、この現象の出現傾向および強度を把握するため、国内で一般用および業務用に市販されている染毛剤を多種類入手し、それらを実際の毛髪に施した後に下記の目的に応じてDNA多型検出を試みた。1)染毛剤の種類による阻害度の検討:ヘアダイ(3社、2色、計6種類)、ヘアマニキュア(3社、3色、計9種類)について染色後、毛根・毛幹(約10cm長)を採取し、そのまま毛髪DNA抽出キット(3種類)でDNAを抽出し検討したところ、ミトコンドリアDNA(D-loop領域)・STR多型(3種類)の検出はいずれのキットを用いた場合でも、全15例で全く不可能であった。2)毛髪の洗浄による阻害抑制効果の検討:1)と同じ材料による多型検出を、エタノール、有機溶媒(アセトン・ベンジン)、およびそれらの複数の組み合わせにより毛髪を洗浄した後に行ったところ、ヘアマニキュアの1種類でエタノール+アセトンの組み合わせによる洗浄後、ミトコンドリアDNAの増幅が可能になった(STRは検出不能)。3)洗髪(自然褪色)後の阻害傾向の検討:ヘアダイの場合、3ヶ月を経過したもの(着色部分の毛幹)を洗浄しても、DNA多型の検出は不能であった。ヘアマニキュアの場合は染色後2〜3週間目(洗髪10〜20回)でミトコンドリアDNAの増幅が可能となり、1ヶ月を過ぎると、ほとんどの例でSTR多型の検出も可能となった。4)毛髪DNA抽出方法の違いによる検出度:フェノール/クロロホルム抽出、シリカ抽出、キレート処理、毛髪DNA抽出キット(3種類)について、ヘアマニキュアで染毛後2週間の毛髪からミトコンドリアDNAの増幅を行い、それらの検出度を比較したところ、シリカ抽出(および同原理を用いたキット)における検出度が最も高いことが判明した。
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