これまでの研究から、反復絶食ストレス負荷したラットの肝臓では、ERK及びJNKと呼ばれる酵素の活性が上昇することが判明した。これらの酵素の発現に関与するサイトカインの定量を行った。Interleukin6については反復絶食ストレス負荷により増加が観察され、Tumor necrosis factorαについては、減少するのが観察された。こうしたサイトカインの増減が反復絶食ストレスの際の一つのマーカーと成る可能性が明らかとなった。しかしながら、これらのサイトカインの血中での半減期は著しく短いことから、実際の解剖症例での応用は困難と思われる。また、絶食等のストレス以外にも何らかの感染症などの虐待とは全く関係のない状況によってこれらのサイトカインが増減する可能性は十分に考慮されなければならず、今回の結果をただちに実際の症例に応用することには多くの課題がある。しかし、生前の症例について血液サンプルを採取することが可能であった場合には、こうしたサイトカインの定量が虐待児童の診断の補助として役立つ可能性があると期待される。また今回、ストレス負荷によって肥満細胞の脱顆粒が生じることが知られていることから、虐待児童の血液中でのトリプターゼ(肥満細胞に局在)の定量を行った。トリプターゼの変化は観察されなかった。しかしながら、肥満細胞脱顆粒刺激剤のラットへの投与によって胸腺が退縮することが確認されたことから、肥満細胞の脱顆粒に続発する現象の中にストレス負荷の有無を示すマーカーがある可能性が明らかとなった。
|