関節リウマチ(Rheumatoid arthritis、RA)は滑膜炎により全身の関節を障害する難治性の慢性炎症性疾患である。その病態形成では種々の炎症性サイトカイン、特にTNFα-TNFレセプター系が重要な役割を演じる。近年、短鎖脂肪酸、中でも酪酸の炎症性腸疾患におけるTNFαの産生抑制効果が示唆されている。しかしそのメカニズムの詳細や、酪酸の他の炎症性病態への応用は十分解析されていない。本研究では培養滑膜細胞および単球系細胞を用いた酪酸のTNFα産生系に対する影響を解析した。 結果、酪酸は滑膜細胞の刺激依存性TNFα産生をmRNA発現レベルで抑制した。RA滑膜炎におけるTNFα産生の責任細胞として単球-マクロファージ系細胞が重要であるが、酪酸の上記作用はヒト末梢血単球、およびマウスマクロファージ系RAW264.7細胞でも証明された。そこでTNFα 5'プロモーター領域、およびその重要な転写活性化因子NF-kB結合配列を用いたluchiferase assayにて酪酸の影響を検討したが、予想に反し酪酸は上記の活性を阻害せず、むしろ自身のHDAC抑制作用を介すると思われる転写促進効果を示した。次にTNFα mRNA 3' UTRを介するmRNA半減期調節機序への影響を考慮し検討したところ、酪酸はTNFαの3' UTR内に存在するAUR配列を介してそのturn overに影響を及ぼす結果を得た。さらにTNFαの3' UTR結合因子であるTIS11ファミリー分子中、TIS11Bは酪酸により発現が誘導され、かつTIS11BをRAW264.7に導入するとLPSによる同細胞のTNFα発現を有意に抑制した。以上より酪酸はTIS11Bを含むAUR結合因子の作用を介して活性化マクロファージ系細胞のTNFα産生を抑制しうることが示唆され、この経路がRAの治療における新たな標的になりうると考えられた。
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