研究概要 |
ビリルビンが活性酸素種を消去する抗酸化物質(antioxidant)であることは、in vitro, in vivo共に我々の報告を初めとして既に確立されてきた。さらに、興味深い事に心理的ストレスにおいても体内に酸化的ストレスが負荷されることを明らかにした(Biochem.Biophys.Res.Commun.(2002)293,517-520,Yamaguchi, T.et al.)。平成16年度は、高脂血症薬(fenofibrate)による酸化ストレスに対するバイオピリンの消長を検討した。Fenofibrateは、peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)のαタイプのagonistで、現在臨床的に注目されている薬物である。しかし、酸化ストレスによる肝障害誘発物質としての副作用もあり、個々の患者への投与量の決定や副作用発症前の鋭敏なストレス・マーカーが求められている。このfenofibrateを含むagonistは、脂肪酸のβ酸化やシトクロームP-450を活性化させ、過酸化水素などの活性酸素種を過剰に産生することが知られている。そこで、ラットを用いた実験でfenofibrateを反復経口投与し、経日的に採血、採尿して肝臓の血液生化学的パラメーターおよび血漿中・尿中BR、バイオピリンをそれぞれジアゾ法、ELISA(24G7)にて測定した。その結果、尿中BR、バイオピリン排泄量は投与翌日より用量依存的に増加した。また、尿中バイオピリン排泄量の増加(3-4倍)はBRと比較してより明らかだった。一方、血漿中パラメーターデはBR、GOT、GPTに明らかな変化は認められず、わずかに、PPARαに関連したALP(alkaline phosphatase)および脂質代謝系酵素の低下が認められた。病理組織学的検査では、肝臓でPPAR/αが関与したパーオキシゾームの増殖が見られた。従って、GOT、GPTの増加に示される細胞死を伴う肝障害という器質変化が起きる前、すなわち、生理・生化学的変化の段階で酸化ストレスに対する応答が尿中バイオピリンの増加というシグナルとして現れている。それゆえ、尿中バイオピリンは、創薬の額域においても安全性試験の一つとして、酸化ストレスの鋭敏かつ簡便なマーカーとなることを示唆している(J.Toxicological Science(2003)28,71-75. Kobayashi, A.et al.)。
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