研究概要 |
癌細胞の浸潤能とアポトーシスにおけるチロシンキナーゼシグナル伝達の役割を、v-src導入ヒト上皮細胞HAG-1で解析した。HAG-1はv-srcを導入すると浸潤能を獲得するが、アデノウイルス組み込み変異抑制Ras分子により内因性Ras機能を抑制すると造腫瘍能が完全に阻害され、さらにRas下流で細胞の遊走能に関与する低分子GTP結合蛋白RacとRhoの変異抑制分子は、Srcによる浸潤能や造腫瘍能を完全に抑制した。このためSrcによる癌悪性化や浸潤能の獲得には少なくともRas機能は必要であり、その下流のRac/Rhoが重要な働きをしていることが明らかにされ、Racを含む低分子GTP蛋白が癌浸潤の重要な分子標的となることがわかった。 SrcをヒトHAG-1細胞に導入すると活性型Srcはチュブリンの脱重合を阻害するタキソテールの薬剤感受性を上げることを発見し、この機序はSrcが抗アポトーシス作用のあるBcl-2をリン酸化することによりその機能を抑制するためであることが明らかになった。さらにEGF受容体阻害剤であるZD1839はヒト上皮細胞HAG-1をアポトーシス誘導するが、RasおよびSrc導入細胞は100-300倍の抵抗性を示した。アポトーシスの機序を解析するため、アポトーシス関連蛋白であるBcl-2、Baxの発現を蛋白レベルでみたところHAG-1細胞ではZD1839処理でBaxの発現が見られたが、Ras, Src導入細胞ではBaxの発現は認められなかった。P53の阻害剤であるPifithrin-_で処理するとBaxが抑制されアポトーシスも回避された。以上の結果はZD1839はp53を介してproapoptotic蛋白であるBaxを発現させアポトーシスを惹起させることが推測された。今後はBaxのAntisenseによりZD1839のアポトーシスが回避できるかどうか、またSrc阻害剤を使用してZD1839耐性を克服できるかどうか、Src阻害剤でIZD1839によるBax発現がみられるかを調べることによってシグナル伝達とZD1839の作用機序の詳細を解析している。
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