研究概要 |
HIV感染者に対して現在行われている多剤併用療法(HAART)は、多くの感染者に血中ウイルス量の低下とCD4陽性細胞数の増加をもたらし、AIDSによる死亡者数を減少させてきた。しかし、最近の研究から現在行われているHAARTでは、血中のウイルス量を感度以下にすることはできても、リンパ節等でのウイルス増殖を完全に抑制することはできないと考えられている。その結果、長期間血中のウイルス量が感度以下の症例でも、治療を中断すると数週間のうちにウイルスが治療前のレベルに戻ってしまうことが多い。すなわち、ウイルス量だけで治療の成否を判断することには、限界があるといえる。そこで我々は、患者さんの末梢血単核球に含まれるウイルスのproviral DNA(pDNA)を高感度に測定する系を確立し、300以上の検体のpDNAを測定した。これにより、血中のウイルス量が測定感度以下の症例でも、pDNAの変動を追うことでウイルスの抑制をより詳細にモニタリングすることができることがわかった。その結果、pDNAとCD4陽性細胞数、pDNAとCD4/CD8比の間に有意な相関が認められた。また、血漿中のHIV-RNA量が測定感度以下の症例では、pDNAが低い程CD4陽性細胞数が多く、4/8比が高かった。同時に、末梢血のFACS解析により、CD4,8陽性細胞のターンオーバー(Ki67陽性細胞の測定)を調べ、生体内での免疫担当細胞のターンオーバーをモニターした。ウイルスが活発に増殖していると、CD4,8陽性細胞のターンオーバーが激しくなると考えられており、ウイルスのリンパ臓器での増殖に対する生体反応の指標と考えられた(現在投稿準備中)。これまでの検討の結果から、pDNAの高感度で安定した測定と同時にCD4,8陽性細胞のターンオーバーを測定することにより従来に比べて正確かつ鋭敏にHAARTのpotencyを評価できると考えられた。
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