研究概要 |
慢性関節リウマチ(RA)は全身の関節破壊をきたす慢性炎症性疾患であり、その病態にはプロスタグランジン(PG)E_2による滑膜細胞の増殖、血管新生、破骨細胞の活性化が強く関与している。シクロオキシゲナーゼ(COX-2)は、アラキドン酸カスケードの最初に働く誘導型酵素であり、COX-2由来のPGE_2がRAの病態に重要である。RAにおいてはCOX-2の強発現が滑膜細胞でみられ、IL-1β刺激などで発現誘導されること(JCI;1992,1994)、COX-2阻害剤がモデルラット関節炎を抑えること(BBRC,2000)などから、COX-2発現がRAの病態に強く関与することは明らかである。非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs)、特にCOX-2選択的阻害薬、抗リウマチ薬、生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)などもCOX-2阻害により抗炎症、抗リウマチ作用を発揮することが知られている。本研究においては、RAにおけるCOX-2発現調節機構の解明、COX-2阻害によるRA治療法の確立、PGJ_2などの核内受容体(PPAR-γ)のリガンドやスフィンゴ脂質とCOX-2発現との関連、COX-2制御による滑膜細胞へのアポトーシス誘導によるRA治療などについて検討する。 【研究実績】COX-2の発現は私どもが報告した大腸癌(Cancer Res,1995)を始めさまざまな癌で発現し、発癌への関与が知られているが、今回新たに乳癌(Surg Today,2003)における発現を報告した。核内受容体であるPPAR-γはRA滑膜で発現が増大し、そのリガンドである15-d-PGJ_2が滑膜細胞にアポトーシスを誘導し、その機序としてcPLA_2やCOX-2を抑制することを報告した(JCI,1999;BBRC,2000;リウマチ,2002)。PPAR-γの癌組織での発現については、前立腺癌(Prostate,2002)、精巣癌(Urology,2002)、膀胱癌(Int.J.Cancer,2003)での発現増大を報告した。また、糖鎖を持つ粘液性物質であるムチンがCOX-2の発現を誘導し、大腸癌の発症に関与することを明らかにした(PNAS,2003)。現在、スフィンゴシン-1-リン酸がその受容体であるedg(endothelial differentiation gene)-1を介して、PGE_2産生を調節し、滑膜細胞の増殖やアポトーシスを誘導することを見い出し、その意義について検討中である。
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