研究概要 |
HBVおよびHCV重感染例で肝細胞癌の発癌率が上昇する原因を解明するため、DNAヘリカーゼ、特にWRN helicaseの異常に着目して、研究を進めていった。 肝組織中のWRN helicase蛋白(WRN)の発現量をWestern blotting法で調べたところ、HCV(-)、HCV(+)肝癌肝組織ともに、非癌部より癌部のほうがWRN蛋白の発現量が多かった。またHCV(-)肝癌肝組織より、HCV(+)肝癌肝組織非癌部のほうが、WRN蛋白の発現量が多かった。免疫染色法では、HCV(-)肝癌組織の非癌部では、WRN蛋白に核、核周囲に染まるもの、染色されないものが存在した。HCV(+)肝癌肝組織ではWRN蛋白は非癌部では核と核周囲にも染まったが、癌部では核に染色されなかった。このことからWRN蛋白はHCV(-)肝癌組織よりHCV(+)肝癌組織で、発現量は亢進しているが核内への移行を癌部で阻害されている可能性が考えられた。なおHCV,HBV重感染肝組織の非癌部では、WRN蛋白はHCV単独感染肝組織よりもさらに弱く染色され、細胞核および核周囲にも存在するが、重感染肝組織の癌部ではWRN蛋白はほとんど染色されなかったことから、HBVが重複感染すると、さらにWRN蛋白の核内への移行を阻害する可能性が考えられた。 またHCV core蛋白を弾制発現させたHeLa細胞で、WRNの局在を免疫染色法で調べたところ、HCV core発現細胞で、WRNは核内に断片化して局在していた。さらにHCV core発現細胞では、核小体蛋白の指標であるnucleophosminの核内の局在を変化させていることが明らかとなった。このことから、HCVは核内に存在する蛋白の局在を変化させることが推測された。 現在、発癌に至る過程を解析するため、両ウイルスの感染可能な正常ヒト肝細胞の初代細胞により近い培養細胞系を構築中である。
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