胃切除が基本治療であった胃マルトリンパ腫の60-80%はH.pylori除菌により退縮し画期的治療である。しかし、20-40%は退縮せず本疾患の除菌治療有効性を予測する因子を明らかにすることは重要である。胃マルトリンパ腫はH.pylori感染胃リンパ濾胞のメモリーB細胞を起源として発生し、一部症例にAPI2遺伝子(アポトーシス抑制遺伝子)とMALT1遺伝子の相互転座がありリンパ腫発生に関連している。API2-MALT1キメラを検出する方法を確立しH.pylori除菌治療有効例ではAPI2-MALT1キメラ陰性、除菌治療無効または増悪例はAPI2-MALT1キメラが検出されAPI2-MALT1キメラの有無が除菌治療の有効性を予測する有用な因子であることを明らかにした。本研究ではH.pylori感染感作胃粘膜B細胞にマルトリンパ腫由来のAPI2-MALT1キメラ遺伝子を導入し、胃マルトリンパ腫の腫瘍化機序を明らかにする。API2-MALT1キメラmRNAを高感度に検出する方法を確立し除菌治療有効例では全例がAPI2-MALT1キメラ陰性であり、除菌治療無効または除菌後増悪例は6例中4例にキメラが検出され、API2-MALT1キメラの有無がH.pylori陽性低悪性度胃マルトリンパ腫の除菌治療の有効性を予測する極めて有用な因子であることを明らかにした。この事実は除菌治療有効性予測因子であるのみならずAPI2-MALT1キメラが腫瘍化にも関連していることを示唆する。胃マルトリンパ腫症例から分離したAPI2-MALT1全長キメラcDNAを発現ベクターを用いてCOS7細胞に遺伝子導入するとキメラ蛋白は細胞質に蓄積する。一方、API2遺伝子あるいはMALT1遺伝子を導入すると蛋白は速やかに分解され細胞内には長時間は蓄積しない。さらにAPI2-MALT1キメラ遺伝子導入細胞ではNF-kBの活性化が起こっていることが判明した。したがってAPI2-MALT1キメラ蛋白の蓄積によるNF-kBの持続活性が重要な腫瘍化機序と推測された。
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