研究概要 |
我々はこれまで劇症肝炎の発生に肝炎ウイルス側の因子として肝炎ウイルスの変異が深く関わっていることを示してきたが、今回は劇症肝炎の発生に関与する生体側の因子について検討を行っている。まず、1)劇症肝炎患者の肝における遺伝子発現に関して、肝細胞由来のDNAチップを作成し、このチップを用いて検討した。亜急性の経過をとり肝移植が行われた患者の残存肝細胞部分と壊死部分の解析の結果、残存肝部分ではCDKN1A, ANXA4, IGFBP, EPRG1, TM4SF1などを初めとする各種遺伝子の発現に差がみられた。現在その詳細について解析するとともに、症例を増やして検討する予定である。2)また劇症肝炎26例、一般健常人80例を対象としてIL-10, IL-1ベータ, CD14, VDR, CTLA4など各種サイトカイン遺伝子のSNP解析を行った。現在のところ、これらの遺伝子のSNP頻度には有意な差異はみられていないが、対象患者数を増やして検討中である。また他の遺伝子についてもSNP解析を施行中である。3)また、我々はマウスモデルを用いて、抗FAS抗体を複数回投与した場合にアポトーシス抑制がみられることを明らかにしているが、今回はアポトーシスのシグナル伝達に関与すると考えられる各種蛋白について検討した。まずCaspase 8, 9, 3の活性を検討したところ、Caspase 8, Caspase 3ともに活性が抑制されていることが明らかになった。またFAS受容体, Bax, Bid,の発現は不変であったのに対し、FAS受容体とProcaspase 8の結合を阻害するFLIPの発現上昇およびミトコンドリアからのチトクロームCの放出を抑制するBcl-xLの発現上昇がみられることを明らかにした。このことから複数回の抗FAS抗体投与によるアポトーシス抑制はFLIPやBcl-xLの発現上昇によることが示唆された。
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