H.pyloriによる発癌には胃粘膜慢性炎症の結果として生じる萎縮性胃炎・腸上皮化生が前癌状態となる機序の他に、直接に細胞増殖を亢進させたりアポトーシスを抑制することにより発癌をもたらす可能性が考えられる。本研究では(1)細胞内信号伝達系活性化におけるCagA蛋白の関与、および(2)アポトーシス抑制蛋白c-IAP2の発現について、その分子生物学的機序を検討した。その結果、細胞増殖アポトーシス抑制について、cagPAIおよびCagAの関与が分子生物学的レベルにおいて明らかとなった。現在、H.pylori除菌による胃癌予防について臨床研究が始まっているが、わが国のH.pylori感染者は5000万人とも推測されており、感染者全員を除菌することは医療経済的な負担も大きく、また除菌後の逆流性食道炎増悪などの副作用も考慮されなくてはならない。H.pylori感染者の中で胃癌の高危険度群を設定できれば、より有効な胃癌予防策が可能になるとなると思われ、そのためにはH.pyloriによる細胞増殖および反アポトーシスの機序解明が役に立つと考えられる。
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