虚血性腸疾患の治療薬としてPPARγリガンドが有効であるかを評価することを目的とした。マウス虚血再灌流腸管傷害の系でPPARγ発現の経過を解析した結果、正常腸粘膜ではPPARγは一部の上皮細胞の細胞質、多くの粘膜固有層リンパ球と上皮間リンパ球の細胞質に発現していた。これに対し、虚血再灌流腸管傷害誘導により腸粘膜は大幅に脱落し免疫染色での評価は難しかったが、RNAプロテクションアッセイにて虚血再灌流腸管傷害誘導後はPPARγ発現の低下が示された。PPARγリガンドを前投与しておいて虚血性腸管傷害を誘導すると粘膜傷害はごく軽度に終わり、そこでのPPARγ発現強度は正常粘膜よりやや軽度であり、著明な低下はなかった。しかし、正常状態、虚血再灌流腸管傷害ではPPARγ発現は細胞質に見られたのに対し、PPARγリガンド投与後虚血再灌流腸管傷害誘導前の時点ではPPARγ発現の核への移行がみられた。一方、ヒト虚血性腸疾患及び炎症性腸疾患においての腸管でのPPARγ発現の状態を評価した。虚血性腸炎の病変粘膜には正常粘膜とほぼ同程度のPPARγ発現が見られた。比較対象として潰瘍性大腸炎、クローン病も解析したところ、活動性の潰瘍性大腸炎では発現が低下していたが、クローン病では変化が見られなかった。更に、研究代表者の施設の倫理委員会の承諾を得て虚血性腸管傷害の症例に対してインフォームドコンセントの下にPPARγリガンドを投与し、経過を観察した。その結果、8例の虚血性腸炎患者にPPARγリガンドを投与し、全例で急性期症状(腹痛)の軽快をみた。それらのうち腸粘膜生検組織が採取できた症例では、上皮細胞と炎症細胞の細胞質のPPARγの発現は正常大腸よりやや強い傾向がみられ、一部で核への移行がみられた。この発現の差がヒトの虚血性腸炎とマウスの虚血性腸管傷害でのPPARγリガンドの効果の差の一因かもしれない。
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