これまでに肝臓癌の細胞株を用いて、その遺伝子発現プロファイルと抗癌剤感受性を統計学的に検討し、抗癌剤感受性と相関する遺伝子群の抽出および遺伝子薬剤間の相関ネットワークの構築をおこなってきた。この手法を膵癌臨床検体に応用し、膵癌治療の個別化最適化をはかることを目的として、膵癌細胞株を用いて膵癌患都実際の臨床で用いられているGemcitabine、5FU、シスプラチンなどの抗癌剤に対する感受性を検討した。この結果、膵癌細胞株の抗癌剤感受性は他の組織由来の癌細胞株(胃癌や大腸癌細胞株)に比べて低いことが明らかとなった。さらに、用いた膵癌細胞株の遺伝子発現プロファイルを約1万の遺伝子が搭載されたマイクロアレイを用いて検討し、そのデータベース化をおこなった。これらのデータを統合し詳細な統計学的解析を加えることで、各薬剤の感受性規定遺伝子群を明らかにすることを進めている。また、GemcitabineについてMIAPaCa細胞株を用いて長期曝露をおこない、残存するGemcitabine耐性クローンを単離して、その耐性に関与する責任遺伝子をとらえる試みを行っている。 一方、超音波内視鏡生検をはじめとする臨床検体で得られるサンプルは極少量であるため、マイクロアレイにて直接解析するには未だ困難である。そこで、細胞株で得られた情報を臨床検体に演繹するにあたり少量検体でも解析可能にするため、RNAのラベル法の改良を行うとともに、検体の保存法の改善を検討中である。さらに、十分な検体量を確保するために、超音波内視鏡による組織採取のみならず経皮的針生検、腹水中の癌細胞の収集などを合わせておこない、今後の解析に備えている。
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