炎症性腸疾患は原因不明であるが、その病態には遣伝的要因を背景として、腸内細菌叢に対する異常免疫反応が関与すると考えられている。本研究では、本症における腸内細菌叢の全貌を解析しうる手法としてt-RFLP法を用いて、とくに潰瘍性大腸炎における腸内細菌叢の特性を解析した。その結果、潰瘍性大腸炎の便中細菌叢のt-RFLPプロファイルはデンドログラム上、健常人と明らかに異なるプロファイルを呈した。また、潰瘍性大腸炎では健常人にみられないRFs peakを有し、その多くは従来の培養法では同定困難な難培養性細菌からなることが明らかとなった。一方、本症の発症トリガーとして腸管粘膜バリアの破綻が想定されているが、本研究では、その要因として腸内細菌叢由来二次胆汁酸に着目して検討した。腸管上皮細胞は軽度の炎症性サイトカインの存在下に酸化ストレスに応じてIL-8 mRNAの発現が誘導され、胆汁酸による上皮細胞障害にも酸化ストレス、すなわちreactive oxygen speciesの産生が主役を演じることを明らかにした。この際、XOは上流シグナルとして、ERK1/2、PI3K、p38MAPKとMLCKが下流シグナルとしてROS産生に関与することを明らかにした。この結果を踏まえ、CaCo-2細胞に胆汁酸グルクロン酸抱合酵素であるUGT1A3をtransfectionにより強制発現させることにより、胆汁酸(lithocholic acid)によるIL-8 mRNA発現への効果を検討したところ、UGT1A3の強制発現により抑制しうることを明らかにした。 本研究により、腸内細菌叢の全貌の解明にはさらなる検討を必要としているものの、炎症性腸疾患への腸内細菌叢由来二次胆汁酸の関与とその機序、さらにはUGT発現が胆汁酸による腸管上皮細胞障害に防御的に関与することを明らかにした。
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