Regは膵臓再生にかかわる増殖因子として発見された。Regは胃粘膜障害の再生時にも病変部周辺に高く発現することが知られており、また、in vitroの培養系で胃粘膜細胞の増殖を刺激することが示され、胃粘膜再生や胃癌発癌に関与していると予想された。本研究はこれらのReg蛋白質のすでに得られている知見をもとに、これをさらに進め、胃粘膜細胞内でのシグナル伝達や癌化との関連、in vivoにおける増殖促進作用を解析する。 申請時に一部記したとうり、我々は培養胃癌細胞を用いてRegによる細胞内シグナル伝達を解析した。結果、Reg刺激により早期に150Kdの蛋白質がチロシンリン酸化され、遅れて古典的MAPキナーゼのリン酸化が観察された。これに伴いH^3チミジンの取り込みが増大した。両事象の関連はMAPキナーゼ特異的阻害薬を用いて証明された。これらの結果は分化癌由来細胞を使った実験では得られず、未分化癌由来細胞に特異的であった。さらに、ヒト胃癌細胞組織、特に未分化癌において、Regは正常組織にくらべ高発現しており、発癌との関連が示唆された(FEBS Lett. 2002)。また、Regの細胞内シグナル伝達研究をおし進めるため、受容体のクローニングをめざしている。ヒスチジンtagを融合させたReg蛋白質をCOS細胞内で発現させ、これをニッケルカラムに結合させ、胃癌細胞ライセートとインキュベートしたところ、in vitroのキナーゼアッセイにて上記分子量にだいたい一致する、自己リン酸化蛋白質が検出された。これをReg受容体と考え、さらに精製を進めている。 また、Regのin vivoにおける増殖促進作用を評価するためにサイトメガロプロモーターを持つ発現ベクターを用いてトランスジェニックマウスを作製した。このマウスの胃粘膜は、正常マウスに比べ2倍以上の厚さを示し、Regの胃粘膜幹細胞に対する増殖促進作用が示唆された。さらに、免疫染色により、増殖促進された細胞は壁細胞、主細胞のみであることが示され、新たにRegの胃粘膜細胞分化作用が示された。
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