研究概要 |
数々の実験から脂質の中でも飽和脂肪酸及び二重結合の少ないω6多価不飽和脂肪酸と発癌との関係が注目されている.今回我々は,ω6多価不飽和脂質としてコーン油10%を含む餌をラットに長期投与して,azoxymethane(AOM)接種による前癌状態である大腸の異所性クリプト(ACF)の形成に与える影響について調べた.【方法】90〜120gの3週令雄性SDラットを,(1)コントロール群,(2)AOM投与群,(3)高脂肪食群,(4)AOM投与高脂肪食群の4群(各群6匹)に分けた.(1)・(2)群では通常の餌を与え,(3)・(4)群では高脂肪食として10%コーン油を含む餌を与えた.また,(2)・(4)群では4週令及び5週令の時点で15mg/kgのAOMを腹腔内投与した.12週間後(17週令)にラット大腸を摘出し,ACFの数をメチレンブルー染色法を用いて評価した.さらに,腸粘膜の脂質過酸化度をTBA法にて測定し,腸粘膜のアポトーシスをDNA断片化率及びアガロースゲル電気泳動法を用い評価した.また,Western blottingにてcaspase-3を測定してACF形成への関与についても検討した.【成績】全大腸のACF数は(1)群で4.3±1.4個,(2)群で41.0±3.3個,(3)群で15.8±1.0個,(4)群で73.4±10.6個であり,明らかに高脂肪食摂取によりACFの形成が増加した.粘膜の酸化度も高脂肪食群では著明に亢進していた.粘膜のDNA断片化率は,(1)群で10.6±1.6%(2)群で4.4±0.6%,(3)群で4.6±0.9%(4)群で2.8±0.6%であり,脂肪摂取によるアポトーシスの抑制が認められた.Western blotting法でもコーン油接種群の粘膜細胞のcaspase-3活性低下が確認された.【結論】ω6多価不飽和脂肪酸の長期過剰摂取により,AOM投与によるACF形成が促進された.同時に粘膜の過酸化度上昇及びアポトーシスの抑制も認められた.脂質の過剰摂取による粘膜の酸化,アポトーシスの抑制がACF形成促進へつながるものと思われ,大腸の発癌機序を考える上でも興味深い知見である.
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