研究概要 |
抗ミトコンドリア抗体(AMA)の測定法には従来の蛍光抗体間接法(IF-AMA)の他に、ELISA法による「抗ミトコンドリアM2抗体」、Western blotting法(WB法)、enzyme inhibition assay(EIA法)があり、現在健康保険で認められているのはIF-AMAと『抗ミトコンドリアM2抗体」である.WB法はほぼ100%の感度があるが、手技が煩雑で定量性に乏しく研究室レベルで行われているのみである。EIA法はAMAがPDC活性を阻害することを利用した測定法でほほ100%の疾患特異性を有しているが、欧米に比べて抗PDC-E2抗体の出現頻度が低い本邦においては感度が問題となる.ELISA法による従来の「抗ミトコンドリアM2抗体」は精製PDCを抗原としてIgGクラスの抗体のみを検出するためEIA法と同様その感度が問題であったが、2002年4月から固相抗原にリコンビナントのPDC-E2,BCOADC-E2,OGDC-E2を用い、標識抗体に抗ヒトイムノグロブリン抗体を使用することにより、IgC, IgM, IgAクラスの抗体が検出可能となったELISA法測定キット「MESACUP-2テストミトコンドリアM2」(MBL社)(ここではNew-M2と略す)が使われるようになり、その感度がIF-AMAにほぼ匹敵するようになった.しかし、IF-AMAとNew-M2は保険点数が同じで同時算定はできないため、今後臨床の場で両者をどのように使い分けて行くかを検討する必要がある。そこでわれわれはPBCの診断および経過観察におけるNew-M2測定の臨床的意義をIF-AMAとの比較により検討した。当科にて経過観察されインフォームドコンセントを得たうえで血清を-80℃で凍結保存されている原発性胆汁性肝硬変(PBC)47例、自己免疫性胆管炎8例、自己免疫性肝炎33例、B型慢性肝疾患(慢性肝炎4例、肝硬変6例)10例、C型慢性肝炎17例、脂肪肝8例、アルコール性肝硬変1例を対象に検討した結果、PBCに対する感度はNew-M2が93.6%とIF-AMAの89.4%を上回っていたが、特異度はNew-M2がAIHをはじめ他疾患で陽性となることがあるため90.9%とIF-AMAの98.7%より低く、したがって真度(正確度)はIF-AMAがやや優れていた。しかしながら、PBCの経過齪察にはIF-AMAのtiterよりもNew-M2値の経過が血清ALP値やγ-GTP値と連動する場合が多く有用である可能性が考えられた.これはIF-AMAが希釈倍数で表されるのに対し、New-M2は連続した実数で結果が出るため、より細かい力価の変動が検討できるためとおもわれ、PBCの疾患活動性や治療のモニターにより適していると考えられる。 また、WB法でのIgAクラスの抗M2抗体が、PBCの組織進展例に多く出現することを見いだしており、この抗体がPBCの進展を予測する因子になりうるならば、さらに臨床に役立つとおもわれ検討を続けている。
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