H.pyloriが胃粘膜上皮細胞に接着すると、4型分泌機構がH.pyloriの細胞膜から上皮細胞膜へ針をさすように突き刺さり、その内腔を通してCagAがH.pyloriから胃粘膜上皮細胞内へと注入される^5。上皮細胞内に注入されたCagAは上皮内でチロシンリン酸化を受け、チロシンリン酸化されたCagAが、細胞の増殖や分化に重要な役割を担う細胞質内脱リン酸化酵素であるsrc homology phosphatase-2(SHP-2)と結合することが認められた。また、cagA遺伝子はcagAの3'領域のチロシンリン酸化部位に一致し、多型性を示すことが認められた。CagAのチロシンリン酸化部位は972番目のチロシン残基であり、CagAのSHP-2結合部位はチロシンリン酸化部位下流の5アミノ酸配列であり、同部位に東アジア株に特異的な配列を認め、東アジア型のCagAは欧米型のCagAに比べSHP-2との結合が有意に強いことが認められた。さらに、我々はCagAの多型の臨床的意義を検討するため、胃癌の発症率の異なる福井県と沖縄県の菌株を比較検討した。福井株65株(慢性胃炎株36株、胃癌株29株)と沖縄株45株(慢性胃炎株42株、胃癌株3株)のcagA遺伝子の塩基配列を決定するとともに組織学的解析を行った。福井株の全ては東アジア型のCagAであったが、沖縄では胃炎株の14.3%はCagA陰性で、19.0%が欧米型、66.7%が東アジア型のCagAであった。慢性胃炎株では、東アジア型のCagA感染例において、欧米型のCagA感染例に比べ胃粘膜萎縮度が有意に高度であった。また、全ての胃癌株は東アジア型のCagAであった。したがって、東アジア型CagAを有するH.pylori感染は胃粘膜萎縮及び胃発癌に関与することが考えられた。
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