平成14年度から平成15年度において、B型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法とHBV遺伝子変異との関連について研究し、以下のような知見を得た。日本におけるB型慢性肝疾患患者のHBV genotypeの分布状況は、85%がHBV/C型で12%がHBV/B型であったが、その地理的分布には特徴があり、沖縄と東北地区にHBV/B型が高頻度に分布していた。またgenotypeの違いと臨床像は強い関連があり、HBV/Bに比べHBV/CではHBe抗原の陽性率が高く、病態の進行した例が有意に多く見られた。さらにPre-Cとcore promoter領域の遺伝子変異をみると、HBV/cは高率に変異を起こしていたが、HBV/Bでは低率であった。B型慢性肝炎の患者に対し強力な抗ウイルス剤であるラミブジンを投与すると、genotypeには関係なくウイルスはほぼ検出感度以下まで強く増殖が抑制されるが、やがてその薬剤に対する耐性を獲得した変異株が出現してウイルス量が再上昇してくる。その場合、Pre-C領域の変異が見られない例、治療前ウイルス量の多い例、治療前ALT値が低い例で有意にHBVのポリメラーゼ遺伝子のYMDDからYIDDやYLDDへの変異がおきやすいことが示された。Core promoter領域の変異については、治療との明確な関連は得られなかった。以上の結果から、HBV感染者において、HBV genotypeによるウイルス学的および臨床的に明確な違いがみられることが示された。また抗ウイルス剤による治療を行う場合、治療前のウイルスの状態やいろいろな遺伝子変異の有無の検出がその後の治療有効性や耐性化の予測にきわめて有用であることが示唆された。
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