本研究の目的は、大腸癌発生・進展のメカニズムならびに非ステロイド系抗炎症剤の有する大腸癌発生の予防作用の機序を明らかにすることであり、本邦における早期大腸癌症例を用いてCOX-2蛋白の発現状況を調べ、腫瘍の表現型と遺伝子学的相違を同一症例内の正常部と癌部あるいは腺腫部間で比較検討した。 本年度は、孤発性早期大腸癌症例のパラフィン包埋標本を用いて、同一症例から正常部・癌部(表層部と深層部・腫瘍先進部)また腺腫部を鑑別同定し、局在を重視して下記の検討を行った。 大腸腫瘍におけるCOX2蛋白の発現は、未だ議論が分かれているため、種々の抗COX2抗体を用いた免疫組織化学で、COX2蛋白の発現を検討した。この中で、平成10-11年度科学研究費補助金奨励研究(A)10770239で得た知見と同様に、腫瘍部でCOX2蛋白は腫瘍細胞および間質細胞でup-regulateされていることを確認した。さらにCOX2蛋白の発現とアポトーシスおよび細胞増殖活性の関連を検討したところ、平成12-13年度科学研究費補助金奨励研究(A)12770268で得た知見と同様にアポトーシスのdysregulation(腫瘍増殖活性とアポトーシスの不均衡)の有無を確認できた。また、COX2蛋白の発現とアポトーシスの間には腫瘍先進部においてのみ負の相関が認められた。以上の知見は、すでに論文として投稿中ならびに投稿準備中である。さらに、COX2蛋白とVEGF蛋白および腫瘍内血管密度の間に密な相関を認めたため、これが腫瘍進展の一因となっていると考え、これも論文として投稿中である。 今後、DNA ploidy patternおよびloss of heterozygosity (LOH)ならびにmicrosatelliteの解析と上記COX2蛋白の局在との検討を進める予定である。
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