1.ラット消化管上皮細胞の正常発生、分化および癌化に伴う分化関連抗原の発現動態を明らかにするために固定組織標本の免疫組織染色に利用可能な抗体の作成を試みた。合成ペプチドを抗原としてマウスモノクローナル抗スクラーゼ・イソマルターゼ抗体HM5E4、抗MUC2タンデムリピート抗原抗体104H11、抗MUC2非タンデムリピート抗原抗体2H3、抗MUC5AC非タンデムリピート抗原抗体5S4、1F2、抗Cdx1抗体G713、抗Cdx2抗体7C2、抗Musashi-1抗体1D4を樹立した。 2.ラット胎児腸管上皮細胞発生過程における消化管上皮分化関連抗原の発現を胎生11日齢以降の胎児腸管を用いて免疫組織学的に検討した。Cdx1、Cdx2の発現はそれぞれ胎生15日齢、11日齢で内胚葉細胞細胞核に見られた。絨毛の発生、内胚葉細胞から上皮細胞への移行などに伴いCdx1は絨毛間内胚葉細胞に、Cdx2は絨毛上皮細胞に強く発現する傾向が明らかになった。杯細胞特異抗原MUC2の発現は吸収細胞特異抗原スクラーゼ・イソマルターゼの発現に先行したが、いずれも誕生前に合成、発現が見られた。ホメオボックス関連遺伝子産物であるCdx1、Cdx2とスクラーゼ・イソマルターゼ、MUC2の発現の間に単純な関連は見いだせなかった。 3.AOM誘導ラット腸管腫瘍組織におけるアポムチン、糖鎖抗原、Cdx2の発現の変化を検討した。これらの抗原の腫瘍化に伴う発現低下が見られたが、一部にMUC5AC、H型糖鎖抗原の新たな発現が観察された。癌と腺腫間の表現型の量的な差違は観察されたが、質的な差違はなかった。アポムチン、糖鎖抗原、Cdx2の発現に直接的な関連は見出せなかったが、近位大腸ではMUC5ACとB型糖鎖抗原の関連が示唆された。Cdx2は腺腫の段階から著明な発現低下が認められ、AOM投与のホメオティック遺伝子発現への影響が示唆された。
|