これまでわれわれは、C型肝炎ウイルス(HCV)持続感染者の肝細胞癌化プロセスにはHCV蛋白NS3が関与すること、このNS3作用には宿主蛋白が大きな役割を有することを報告してきた。本研究は、さらなるNS3結合宿主蛋白の検出、これら蛋白間の相互作用の性状分析、および、これら蛋白と腫瘍形成能との関連性の解明を目的とし、本年度は以下の成果を得た。まず、酵母を用いた2-ハイブリッド法によりNS3結合蛋白の検出を行い、従来まで獲得したNS3結合蛋白SmD1に加え、新たなNS3結合蛋白SRCAPを同定した。このSRCAPは、CBPと相互作用して転写活性化に関与する蛋白である。次に、転写レベルへの影響をみるために、p21プロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子を有する発現ベクターを構築し、それらをヒト肝細胞由来株のHepG2およびKN73細胞株へ遺伝子導入した。その結果、ルシフェラーゼ発現量(活性)はSRCAP発現ベクターとの共導入では増加するが、HCV蛋白NS3蛋白を共発現させると活性が著明に低下することを見いだした。SRCAP発現ベクターとNS3蛋白発現ベクターとをKN73細胞に遺伝子導入し、共発現させてNS3の細胞内局在を検討すると、局在に変化が生じて、より多くのNS3蛋白が核に存在することを発見した。しかし、この核移行の効果は、先に報告したNS3結合蛋白SmD1による核移行効果よりも小さかった。この成績は、HCV蛋白NS3は宿主蛋白SmD1と結合し、その存在の場を核に移行させること、さらに、核内でSRCAPの機能に影響を与えることを強く示唆するものである。HCV蛋白NS3は、P21プロモーター活性に対して抑制的に作用する。以上より、NS3による細胞周期への影響、すなわち細胞分裂促進作用が大いに示唆されるところであり、この作用の結果として腫瘍形成能が発現する可能性が推定された。
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