われわれは、C型肝炎ウイルス(HCV)持続感染者の肝細胞癌化プロセスにはHCV蛋白NS3が関与すること、このNS3作用には宿主蛋白が大きな役割を有する可能性を報告してきた。本研究の初年度(平成14年度)には、酵母を用いたtwo hybrid法を用いてNS3結合蛋白の性状の分析を行い、宿主の核蛋白Sm-D1に加えて新たにSRCAPがNS3結合蛋白であることを同定した。今年度は、これら核蛋白のSm-D1およびSRCAPが、HCV蛋白NS3の細胞内局在にいかなる影響を与えるかを検討した。細胞はヒト肝細胞由来のHepG2およびKN73細胞株を使用し、また発現蛋白の検出には、特異抗体を用いたウエスタンブロット法および間接蛍光抗体法を用いた。まず、通常状態における細胞内Sm-D1の局在を確認する目的で、FLAG添加Sm-D1発現ベクターであるpcDNA/FLAG/Sm-D1と、その突然変異体ベクターのpcDNA/FLAG/SmD438を作成して各々免疫染色を行い、Sm-D1蛋白は核内に局在するが、変異蛋白の染色は核内と核外ともに認められることを確認した。一方、N末端含有NS3発現ベクターの細胞導入では、既報のとおりNS3蛋白は細胞内cytoplasm(以下、核外)に局在することも確認した。そこで、この核外に局在するNS3蛋白が、Sm-D1あるいはSRCAPとの共発現によってどのような変化を受けるのかを検討した。その結果、Sm-D1とNS3の共発現では、明らかにNS3蛋白の細胞内移動が生じて、核内にも多量のNS3蛋白が確認できるように変化することを見いだした。同様の核移行現象はSRCAPとNS3との共発現でも観察されたが、その程度はSm-D1より弱かった。以上の成績は、HCV蛋白NS3は宿主蛋白と結合し、その存在の場を核に移行させること、さらに、核内で宿主蛋白機能に影響を与えることを強く示唆するものである。NS3による細胞分裂促進作用と腫瘍形成能発現への細胞生物学的機構は今後の研究課題である。
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