研究概要 |
われわれは、C型肝炎ウイルス(HCV)蛋白NS3がマウス細胞NIH3T3の形質転換を惹起し、腫瘍形成能を発現する作用を示すことを見いだした(J Virol,69:3893,1995)。したがって、HCVの肝発癌機構は、肝細胞へのHCV-NS3導入によって惹起される肝細胞の形質転換に起因する可能性が考えられる。本研究は、このNS3作用が宿主蛋白と如何なる相互関係を有するのかの性状を解析して、腫瘍形成能を発現するHCV-NS3蛋白の肝発癌機構に及ぼす臨床的意義を明らかにすることを目的とし、以下の成果を得た。まず、NS3結合蛋白の有無を検索する目的で、酵母を用いた2-ハイブリッド法を施行し、複数の核内蛋白を検出した。このうちSm-D1を同定し、本蛋白はin vitro/in vivoともにNS3と結合することを見いだした。さらに、新たなNS3結合蛋白SRCAPを同定した。この蛋白は、CBPと相互作用して転写活性化に関与する。これら2つのNS3結合核蛋白をそれぞれヒト肝細胞由来のHepG2細胞株あるいはKN73細胞株へ遺伝子導入し、蛋白発現が如何なる変動を受けるかをルシフェラーゼ発現量で検討した。その結果、ルシフェラーゼ活性はSRCAP発現ベクターとの共導入では増加するが、NS3蛋白を共発現させると活性が著明に低下することを見いだした。次に、2つのNS3結合蛋白がNS3蛋白の細胞内局在にいかなる影響を与えるかを特異抗体を用いたウエスタンブロット法および間接蛍光抗体法を用いて検討した。その結果、本来は細胞内のcytoplasmに局在するNS3蛋白が、細胞内へのSm-D1あるいはSRCAPとの共導入によって明らかに細胞内移動が生じ、核内にも多量のNS3蛋白が確認できるように変化することを見いだした。以上の成績は、HCV蛋白NS3は宿主蛋白と結合し、核内で宿主蛋白機能に影響を与えることを強く示唆するものである。NS3による腫瘍形成能の生物学的機構は今後の重要な研究課題である。
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