早期高分化型肝癌は血流動態が非腫瘍部分と類似しており、病理組織学的にもときに診断困難である。胆管を伴っていない異常血管の存在はnon-triadal vessel(unpairedvessel)として、肝癌の病理診断の基準にもあげられており、α-平滑筋アクチン(α-SMA)はこの異常血管の検出で有用である。α-SMA陽性non-triadal vesselのうち、早期高分化型肝癌では、壁の薄い卵円形の血管(I型血管)の存在が特徴的で、偽陽性所見も少ないことはすでに報告した(J Hepatol Gastroenterol 1998;13:1266-1273)。今回、早期高分化型肝癌で見られる「I型血管」の由来について、外科切除標本の連続切片を用いて検討した。 対象は過去10年間に、肝切除された初発の早期高分化型肝癌10例とした。肝癌組織に対する免疫組織学的検討のうち、6例では、3μm厚の切片で300枚(計0.9mm)の連続切片を作成した。 切除肝癌組織に対するα-SMA染色では、10例全例で卵円形で壁の薄い「I型血管」の存在を認めた。非腫瘍部にはα-SMA陽性のnon-triadal vesselは認めなかった。連続切片作成による免疫組織学的検討では6例中5例で、α-SMA陽性non-triadal vesselが肝癌内門脈域もしくは非腫瘍部門脈域の門脈と連続していることが示された。 肝癌内に認められるnon-triadal vesselは、本来、腫瘍血管の実体としての概念から捉えられており、早期高分化型肝癌で見られるI型血管とは形態学的にも性質が明らかに異なる。今回注目したI型血管は、門脈域からの門脈が連続的に早期肝癌内に分布しているおり、高分化型肝癌の時期に動脈血流が相対的減少に陥る理由として説明がつけられる。
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