早期高分化型肝癌は病理組織学的に非腫瘍部分と区別困難な場合があるが、胆管を伴っていない異常血管の存在はnon-triadal vesselとして肝癌の病理診断の基準にもあげられており、α-平滑筋アクチン(α-SMA)はこの異常血管の検出で有用である。α-SMA陽性non-triadal vesselのうち、早期高分化型肝癌では、壁の薄い卵円形の血管(I型血管)の存在が特徴的で、偽陽性所見も少ない。この「I型血管」の由来を知る目的で、肝切除された初発の早期高分化型肝癌11例について連続切片の免疫組織学的検討を行った。α-SMA染色では、11例全例で「I型血管」を認めた。連続切片作成による免疫組織学的検討では11例中9例で、α-SMA陽性non-triadal vesselが肝癌内門脈域もしくは非腫瘍部門脈域の門脈と連続していた。 血管内皮増殖因子(VEGF)ば癌組織の血管新生に最も強力に働き、癌腫の増殖に重要な位置を占めている。腫瘍のdormancyを目指す治療のうち、特に抗VEGF製剤は化学療法無効の進行肝癌に対する治療薬としても期待されている。肝細胞癌におけるVEGFについて、その生物学的特性と臨床的関連、治療targetとしての意義を検討した。切除肝細胞癌組織についてVEGF発現の強さで陰性・軽微・軽度・中等度の4段階で表現した。高分化型肝癌10例中7例が軽度陽性、3例が中等度陽性であったのに対し、中・低分化型肝癌20例では、9例が陰性、3例が軽微、4例が軽度、4例が中等度陽性あり、高分化型肝癌でのVEGF表出程度が高かった。一般の癌腫では、腫瘍の進展程度が広くまた悪性度が高いほうがVEGF表出が強いとされているが、肝細胞癌の場合には「真の腫瘍血管」が出現していない高分化型肝癌の方が門脈血優位であり相対的酸素不足を示すために、VEGFが高発現していることが考えられる。 肝細胞癌におけるVEGFの動態・臨床的意義は、高分化型肝癌と中・低分化型肝癌で異なった。
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