研究概要 |
我々の開発したCre/loxPスイッチング発現系を利用したHCVトランスジェニックマウス(CN2マウス)に、Creを発現する組み換えアデノウイルス(AxCANCre)を投与してマウスの肝臓にHCV遺伝子の発現を誘導すると、HCV遺伝子産物に対する宿主の免疫反応により急性肝障害が発症する。HCV蛋白質発現細胞を標的とする細胞障害活性(CTL活性)を検討すると、CD8陽性細胞によるHCV蛋白質特異的なCTL活性が検出された。この細胞障害の標的となっている蛋白質はH2dではE1,E2,NS2で、H2bではE1,NS2、H2kではNS2のみであった。この結果からHCV感染においてウイルス特異的細胞性免疫反応が肝障害という臓器障害を引き起こすと考えられた。さらに、同じ遺伝子型のHCV遺伝子によりCTLを効率よく誘導しておくことによりHCV感染の慢性化の阻止や肝障害の治療が可能となると考えられた。そこでDNA免疫法によりHCVに対するCTL反応の誘導を試みている。さらにhSAPプロモーターにより肝臓特異的にHCVコアタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを開発した。このマウスの肝臓では、ヒトHCV感染患者肝と同程度のHCVコアタンパク質が、ウエスタンブロット法およびEIA法で検出できる。しかし自然経過で18ヶ月令まで観察しても肝臓に腫瘍性の病変は発生しなかった。この結果はHCVコアタンパク質単独では腫瘍原性がそれほど強くないことを示唆していると考えられた。そこで、慢性肝障害の腫瘍発生に対する関与を調べるために、四塩化炭素による一過性の肝障害を繰り返し起こすことによりヒトの病変と類似の慢性肝障害をマウスの肝臓におこすことを試みた。四塩化炭素の投与を40週間継続することによりHCVトランスジェニックマウスにおいてコントロールの非トランスジェニックマウスに比べて有意に腫瘍発生数の増加をみた。このHCVコアタンパク質と慢性肝障害による肝腫瘍の発生機構を分子レベルで解析していくとともに、炎症の改善およびウイルス複製の抑制により肝発癌を減少させる治療法の開発が期待できる。
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