研究概要 |
Bisigin、別名extracellular matrix metalloproteinase inducer(EMMPRIN)は27kDaの糖蛋白で、近年、癌細胞で高発現し、周囲の間葉系細胞にマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-1,-2,-3などを誘導し浸潤、転移に関与していることが報告されている。本研究は、慢性喫煙による肺障害とbasigin/EMMPRINの関係を明らかにすることを目的とする。昨年度、ヒトbasiginの定量を可能にする高感度ELISA systemを作成した。R&D Systems社製rabbit polyclonal anti-extracellular domain of EMMPRINを用いたサントイッチ法で、standard直線の作成には、recombinant human basiginの細胞外ドメインを用いた。気管支肺胞洗浄(BAL)液をサンプルとした場合、濃縮なしの原液で測定可能であった。ELISA法を開発することにより気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage ; BAL)液中での定量的解析を行い、各種病態におけるbasigin/EMMPRINの存在とMMPsとの関係について検討することが可能になった。喫煙と加齢は、肺気腫をはじめとする多くの疾患のリスクファクターである。本研究では、中高年喫煙者ボランテイアを対象に、肺高分解能CTで検出された早期あるいは軽度の肺気腫患者と、同程度に喫煙歴がありながら肺気腫病変がない同年齢対象者、および喫煙歴がない対象者、全81名のBAL液を用いた。BAL液中のbasigin/EMMPRIN濃度は、現在喫煙中の者では肺気腫病変の有無に関わらず、非喫煙者、および禁煙者に比べ高値を示した。免疫組織染色法により、basigin/EMMPRINの局在を健常非喫煙者肺、健常喫煙者肺、肺気腫肺を対象検体として検討した。健常非喫煙者肺では、少数の肺胞マクロファージに陽性に染色されるが、肺の構成細胞にはbasigin/EMMPRINの発現はほとんど認められない。一方、喫煙者肺、肺気腫病変においては、集積した肺胞マクロファージ、細気管支上皮、気管支腺に、強陽性に染色された。これらの結果は、喫煙をリスクファクターとする肺の炎症性疾患において、直接あるいはMMPsの誘導を介して関与している可能性を示唆する。
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