研究概要 |
喫煙が肺気腫の重要なrisk factorであることはよく知られているが、どのようなメカニズムで肺気腫が発症するかはまだ不明な点が多い。私達はラットにVEGF receptor-2特異的阻害薬であるSU5416を3週間投与して、慢性的にVEGFシグナル伝達を阻害すると、血管内皮細胞にアポトーシスがおき、引き続き肺胞上皮細胞にもアポトーシスがおきて、肺胞が消失して気腫化がおきることを示した。VEGF系シグナル伝達は正常な肺胞構造の維持に必須であると考えた。 喫煙曝露による肺気腫発症のメカニズムにどのようにVEGFが関連しているかを調べた。私達は、喫煙吸入実験装置(MIPSレスピー製INH06-CIGR01型)を用いて、マウスに長期喫煙曝露をおこなった。マウスに1日タバコ20本吸入を24週間おこない、肺組織を形態学的解析、病理組織学的検討(アポトーシス関連染色としてTUNEL染色・Acitivate Caspase-3染色)、肺組織のホモジナイズによるアッセイ(Caspase-3酵素アッセイ、VEGF)、気管支肺胞洗浄液の解析を行った。形態学的解析の結果mean linear interceptはコントロールマウスと比べて喫煙マウスでは拡大しており、気腫化をおこしていることが認められた(53.8±5.9μm vs. 40.7±2.7μm, P<0.01)。肺組織のホモジナイズ中のVEGF量は、コントロールマウスと比べて喫煙マウスでは減少していた(150.9±10.6pg/mg vs. 196.4±6.5pg/mg, P<0.01)。喫煙によってVEGF系シグナルが低下すると、正常な肺構造を維持できなくなる可能性が考えられた。次にFACSを用いて骨髄細胞および末梢血単核球分画をSca-1 (Stem cell antigen-1)とVEGFR-2で標識して陽性細胞を測定した。両者に陽性である血管内皮前駆細胞を含む細胞分画は、末梢血中では有意差なかったが(0.52±0.20% vs. 0.94±0.69%)、骨髄では喫煙曝露群で増加していた(0.48±0.16% vs. 0.84±0.46%, P<0.02)。喫煙曝露により血管内皮障害がおこり、血管内皮細胞の需要が高まり、代償的に骨髄で血管内皮前駆細胞が増加している可能性が考えられた。
|