膠原病合併肺高血圧症は、原発性肺高血圧症と共通する臨床像、病理学的特徴を持つ難治性病態である。近年家族性原発性肺高血圧症の原因としてbone morphogenetic protein receptor II (BMPR-II)の変異が同定された。変異BMPR-IIは、BMP刺激伝達系を阻害し、肺動脈平滑筋、内皮細胞などの異常増殖を来し肺高血圧発症に関与すると考えられている。 我々は肺高血圧症の発症機序としてBMP刺激系を阻害する自己抗体が肺高血圧症を発症するという仮説をたてた。この仮説を検証するために、免疫学的機序が関与していると考えられる膠原病合併肺高血圧患者の血清中にBMPR-IIに対する自己抗体が存在するか検討した。また、患者血清がBMPシグナルを阻害し、BMPの肺動脈平滑筋増殖抑制効果に与える影響を検討した。 BMPR-IIに対する自己抗体は肺高血圧合併膠原病患者の35%(n=14)に検出された。しかし、肺高血圧症を合併した膠原病および健常人では認められなかった。抗BMPR-II抗体は肺高血圧発症前の患者血清で検出され、免疫抑制療法をおこなった肺高血圧患者では、その力価は肺動脈圧の治療による変化と関連して変化した。 抗BMPR-II抗体陽性患者の血清が、BMPシグナル伝達を阻害するかBRE (BMP response element)を持つレポーターアッセイをおこなったところ、抗BMPR-II抗体陽性患者の血清は、BMPシグナル伝達を抑制した。さらに、患者血清およびBMP存在下で肺動脈平滑筋細胞の増殖を検討したところ、抗BMPR-II抗体陽性患者の血清は、BMPによる肺動脈平滑筋細胞増殖抑制効果を阻害した。 以上より、肺高血圧合併膠原病患者には、BMPレセプターに対する自己抗体が存在し、BMPシグナル伝達を阻害することにより、肺動脈平滑筋細胞の増殖を促進し、肺高血圧発症に関与する可能性があることが示唆された。このことは、自己免疫性肺高血圧症が存在する可能性および抗BMPレセプター抗体を標的とする新たな肺高血圧症の治療法の可能性を示唆する。また、本抗体の測定は、肺高血圧発症の予知、モニターリングにも有用であることが示された。
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