悪性胸膜中皮腫細胞株NCI-H28における3p21.3ホモザイガス欠失領域内においてβ-cateninの欠失および新規遺伝子MTSK1(仮称)の欠失を同定した。β-catenin自身がNCI-H28細胞株における腫瘍抑制性を有するかどうかを確認するために、細胞内へトランスフェクションを行った。ルシフェラーゼアッセイによりβ-cateninの転写活性能を確認したのちコロニー形成能を検討したところNCI-H28細胞株の著しい増殖抑制が認められた。TUNEL法によりこの抑制がアポトーシス誘導によるものであることを確認した。また、NCI-H28株はβ-cateninを欠失しているためβ-catenin非存在下にてγ-cateninの機能を解析し、γ-cateninがTCF/LEF依存性の転写活性能を有することを明らかにした。一方、MTSK1遺伝子の予想されるオープンリーディングフレームにおいてゲノミックPCR-SSCP法にて悪性胸膜中皮腫9検体および肺癌63検体を解析したが、体細胞突然変異は認められなかった。MTSK1遺伝子は3種類のオールタナティブスプライシングフォームが存在することが明らかになり、それぞれの発現ベクターを構築してNCI-H28株にトランスフェクションしたところウエスタンブロット法にてその発現が確認された。また、MTSK1導入によるNCI-H28株のコロニー形成能の抑制が示唆された。さらに154人の原発性肺癌患者の手術検体を用い、RAS遺伝子の変異検索を行った。11例のKRAS変異が認められマイクロダイセクション法によりそのうち9つの腫瘍は野生型KRASを保持していることが明らかになり、変異型KRASの過剰発現がKRASの活性化にとって重要であることが示唆された。
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