研究概要 |
我々は、乳癌耐性蛋白が肺癌治療薬のトポイソメラーゼ1阻害剤の比較的特異な排出蛋白であること報告した(BBRC 280:1216,2001)。さらにこの乳癌耐性蛋白は、直接薬剤と会合して細胞外に瞬時に排出することを報告した(BBRC 288:827,2001)。 臨床的研究を推進するために肺癌臨床検体での乳癌耐性蛋白の発現と機能を検討した。その結果、非小細胞肺癌には薬剤耐性を惹起する程度の乳癌耐性蛋白が明らかに発現していた(Clin Cancer Res 9:3052,2003)。このことは、乳癌耐性蛋白を標的にした抗癌剤の開発が肺癌治療に有用であることを示した。 これらの成果を基に、乳癌耐性蛋白の基質となり難い薬剤の分子設計を試みた。強力な抗癌剤であるトポイソメラーゼ1阻害剤SN-38の各種誘導体を作成し、乳癌耐性蛋白を強発現する細胞の膜小胞輸送実験でその基質特異性を解析した。その結果、より極性の高い誘導体が耐性を克服して、有効な抗癌剤に成り得ることを明らかにした(Int J Cancer 110:921,2004)。さらに、クーママイシン系抗生物質であるノボビオシンが乳癌耐性蛋白の基質となり、臨床的にも安全な濃度で競合的に乳癌耐性蛋白の機能を阻害することを初めて明快に証明した(Int J Cancer 108:146,2004)。新規肺癌治療薬として、ヒストン脱アセチル化阻害剤FR901228がテロメラーゼ活性を阻害することを初めて明らかにし論文化した(Int J Cancer 104:238,2003)。最近、FR901228がアポトーシス関連遺伝子発現にも関与していることを報告した(Mol Cancer Ther 3:1397,2004)。2005年2月には、分子標的薬gefitinibが乳癌耐性蛋白を介した抗がん剤耐性を克服することを生化学的に証明報告した(Cancer Res 65:1541,2005)。2006年には、この克服作用が各種の肺癌細胞で観察された(Cancer Chemother Pharmacol 58:594,2006)。 今回の一連の研究では多くの新知見が得られ、全て英文論文として国際誌の中で発表した。
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