気管支喘息病態におけるEGF受容体.(EGFR)発現と活性化の意義を、ラット喘息モデルおよび気道培養上皮細胞(NCI-H292細胞)を用いて検討した。Brown-Norway系ラットを卵白アルブミンにて感作および吸入刺激し、気道の形態評価(Alcian blue/PAS染色、MUC5AC免疫染色)、気管支肺胞洗浄(BAL)による細胞組成の解析およびメサコリンに対する気道過敏性の測定(penH)を行った。Alcian blue/PAS染色陽性領域、BALF中の炎症細胞数は、吸入刺激48時間後に有意に高値を示したが、2週後には自然回復傾向を認めた。一方penHは吸入刺激48時間後と同様、2週後も継続して高値であった。EGFRの発現は、吸入刺激後に杯細胞、基底細胞に一致して増強が認められた。喘息病態発現後に選択的EGFRリン酸化阻害薬(AG1478)を経気道的に投与すると、杯細胞過形成、炎症細胞浸潤、気道過敏性亢進はいづれも改善傾向を認め、杯細胞にはアポトーシスが認められた。in vitroの系では、TGFα投与によりMUC5AC、抗アポトーシス蛋白Bcl-2の発現増強が認められ、AG1478の前処置により抑制された。一方MEK阻害薬PD98059はMUC5ACの発現を抑制したが、アポトーシスには影響を与えなかった。またカスパーゼ阻害薬Z-VAD-fmkはAG1478によるアポトーシス増加を抑制した。以上より、気管支喘息ではEGFRの発現が増強し、その活性化はMUC5AC発現と抗アポトーシス蛋白(Bcl-2)の発現を惹起し、杯細胞過形成を維持する方向に働くことが推測された。すなわちEGFRチロシンキナーゼ阻害薬はMUC5AC発現抑制と杯細胞のアポトーシス促進により気道リモデリングを改善する可能性が示唆された。
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