研究概要 |
<目的> 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis : ALS)は進行性に脳・脊髄の運動ニューロンが脱落する神経変性疾患の一種で,詳細な病態機序は不明である.病理上,残存する運動ニューロンでは細胞内に異常な蛋白凝集が見られ,多彩な翻訳後修飾を受けている.我々は糖化に着目し最終糖化産物(advanced gycation end-product : AGE)について剖検脊髄で検討した.更に,培養ニューロンを用いて各種神経毒性物質のもたらす翻訳後修飾の変化を検討した. <方法> 1.ALS患者剖検脊髄と対照群を各種AGE抗体で免疫組織染色し検討した. 2.ラット胎仔・新生仔から得た脊髄ニューロン分散培養や器官培養を細胞毒性物質に暴露し,翻訳後修飾の変化などについて検討した. <結果> 1.Carboxymethyl lysine (CML)はALS患者の残存する萎縮した脊髄前角運動ニューロンとミクログリアで陽性だった.一方,non-CML AGEはミクログリアと軸索スフェロイドに存在し,スフェロイドでは抗SOD1抗体,抗ニューロフィラメント抗体と共局在していたが,患者の非運動ニューロンや対照群では陰性だった. 2.プロテアソーム阻害剤は培養脊髄運動ニューロンを比較的特異的に傷害し,その過程で蛋白のユビキチン化,CML修飾を増加させていた. <考察> AGEの検索に従来CMLが多用されてきたが,近年CMLの主要な産生系路はlipid peroxidationであることが明らかとなり,AGEの評価に際してはCMLを認識しないnon-CML抗体の重要性が増している.今回,non-CML-AGEが検出されたことは,糖化反応が運動ニューロン毒性に関与しうることを示している.neurofilamentや家族性ALSの原因遺伝子産物であるSOD-1が糖化の基質となっている可能性が考えられる.
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