研究概要 |
ヒトの高次脳機能の円滑な遂行は、注意機能が適切にはたらいていることが前提となる。外界の多様な情報を処理するためには,対象となる情報に選択性注意を振り向けることが必須である.さらに,処理のレベルにより選択性注意の範囲や配分を適宜変換する必要がある.これらの過程は通常,意識されずに行われており,その神経基盤も不明な点が多い.より効率的な情報処理システムの構築のためには,選択性注意の神経生理学的な特徴とそれに関連するニューラルネットワークを理解することが重要である.本研究では,ヒトにおいて、選択性注意とその変換の神経基盤を知り、注意機能による認知処理の変化を明らかにすることを目的とした.そのために,病巣をもつ患者における臨床的研究と脳機能画像法を用いた健常人における研究の両面から検討を進めた. 臨床的研究としては、両側頭頂葉病巣をもつ脳血管障害例と頭頂後頭葉萎縮が顕著な視覚型アルツハイマー病例を対象とし、視覚対象の受容・処理のレベルにより反応がどのように変化するかを検討した。その結果、視覚対象の性質や認知過程の複雑さによって視覚性注意の範囲が変化することが明らかとなった。また、機能的MRIによる研究では読みの習熟度により視覚性注意を含む過程が変化し、異なる脳部位が賦活することが分かった。皮質電気刺激による検討では、左右への視覚性注意と局所・全体への視覚性注意が、頭頂葉の異なる部位により障害されることが示された。さらに、皮質脳波を用いて、視覚刺激に関連したhigh-frequency gamma bandが文字種特異的に出現することが確認された。以上より視覚性注意の変換・統合には両側頭頂葉が重要で、頭頂葉内に注意の各側面に対応する複雑なネットワークがあることが示唆された。
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